少し前になりますが、京都大学の山中 伸弥(やまなか しんや)教授をテレビでよくお見かけするような気がしていました。研究所の資金集めのため自ら広告塔となっていらっしゃるようです。

山中教授と言えば、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の作製に成功したことでノーベル生理学・医学賞を受賞した方です。iPS細胞は、最近でも、難病や脊髄(せきずい)損傷などの治療のための再生医療や新薬開発などで活用されていることがよくニュースになっています。

さぞかし資金は潤沢なのではと思うところですが、iPS細胞研究所のホームページによると研究所の財源のほとんどが期限付きであるため、研究職員の9割以上が非正規雇用とのことでした。

博士号を持っていても正規の職がないため、非正規の職を渡り歩く、いわゆる「ポスドク」と呼ばれる方々の処遇が問題になっていますが、山中教授の研究所も例外ではないようです。

iPS細胞作製の成功は基礎研究の成果です。基礎研究とは、特定の用途や実用化できるかなどは考慮せず、物事や現象について基本原理を地道に解明する研究です。

成果が現れるまで長い時間を要したり、その成果がどのような役に立つのかが分からないため軽視されがちで、研究を支える費用も応用研究や開発研究に比べて低い配分となっているようです。

そんな中、5月に文部科学省が発表した「科学技術白書」では、初めて基礎研究をテーマとし、歴代のノーベル賞受賞者である本県出身で東京大学の梶田 隆章(かじた たかあき)教授や、京都大学の本庶 佑(ほんじょ たすく)教授などが繰り返し述べていた基礎研究の大切さを説く言葉を紹介しています。

基礎研究の先細りは日本の科学技術力の低下につながります。単に日本からノーベル賞受賞者が出なくなってしまうということではなく、国力の低下を招きかねません。

研究の量と質を測る一つの指標として、引用された論文数の国際比較があります。実際日本は、被引用数が上位10パーセントに入る論文の平均数で2004年から2006年では世界第4位でしたが、2014年から2016年では第9位に順位を下げています。ちなみに中国は米国に次ぐ第2位に躍進しています。

日本の生命線は、今も昔も科学技術立国以外ありません。そのためには、常に未来を意識しながら、時間をかけた投資が不可欠であると思います。