昨日に続き、「馬上、枕上、厠上」について御紹介します。中国・北宋の政治家、欧陽脩(おうようしゅう)は、良い考えの生まれやすい状況の一つとして「枕上(ちんじょう)」すなわち布団の中も挙げています。シルバー川柳に「寝て練った 良い句だったが 朝忘れ」というのがあります。一方、夢うつつの状態で妙案が浮かぶこともあれば、その逆に前日には考えがなかなかまとまらなかったものが、一晩寝て頭がすっきりしたら良いアイデアが浮かんだという経験は誰にもあります。
お茶の水女子大学の外山滋比古(とやま しげひこ)名誉教授は、名著「思考の整理学」の中で「見つめるナベは煮えない」という外国の諺(ことわざ)を紹介しながら、何かを考え始めてから答えが出るまではある程度時間が掛かると説いています。早く煮えないかと絶えずナベのふたを取っていては、いつまで経っても煮えないように、あまり考え詰めていると、出る芽も出ないということだそうです。一晩寝てからだとナベの中は程よく煮えると言います。「枕上の妙、ここにあり」と外山氏は述べておられます。睡眠中には、その日に体験したことのうち、記憶しておくべき事柄と処分すべき事柄の「仕分け」がされているのだそうです。一晩よく寝て、すっきりと整理された状態の脳からこそ良いアイデアが出るのかもしれません。睡眠不足は要注意ということですね。
最後に「厠上(しじょう)」すなわちトイレですが、温水洗浄便座という世界に冠たる日本のハイテクトイレは、思索にふける場所として最適とも言えるかもしれません。実際トイレに本や雑誌を持ち込んで思索にふける人も少なくないと言われています。しかし、医学的には長時間トイレに入るのは痔の予防には良くないそうです。携帯メールを打ったり、雑誌を読むなどトイレに長居するのは厳禁だそうです。「厠上」での思考はほどほどにというお話です。