英国のEUからの「合意なき離脱」が現実味を帯びてきました。
間もなく辞任するメイ首相がまとめた離脱案はこれまで議会下院で3度も否決されていました。この状況を打開するために、メイ首相が再度の国民投票の可能性を示唆したところ非難が集中し、ついに辞任を表明する事態となりました。

現在、当初の離脱期限である3月29日(金曜日)から二度の期限延長を経て、10月末がEU離脱期限となっています。

後任を決める保守党の党首選の候補者は最終的に二人に絞られ、強硬離脱派と穏健派の一騎打ちになるようです。後任の首相が強硬離脱派になれば、一旦は回避した、EUと何の取り決めもないまま離脱する「合意なき離脱」が現実味を帯びてきます。一方、穏健派になったとしても、既にEU側が英国と再交渉はしないと明言していることからやはり「合意なき離脱」の懸念があります。

ちなみに、英自動車工業会は6月に、「合意なき離脱」なら自動車業界は1日当たり最大で約95億円相当の損失を被るとの推計を発表しました。これはEUとの貿易に関税や通関手続が生じたりすることや、物流が滞って生産や販売に打撃を受けることによるものです。

こうなってくると、2016年6月に国民投票が行われ、離脱が正式に発表された直後に、英国内のGoogleで2番目に多く検索された質問が、「EUって何?」であったとの報道が思い出されます。なお、「EUから離脱するとどんな影響があるのか」も多く検索された質問の一つであったようです。

当時は「まさかEUが何かを知らないで投票したわけではあるまい」と世界中で驚きの声が上がりましたが、今日の混乱を見ていると、さもありなんと思ってしまいます。

私たちは毎日の生活の中で大小様々な決断をしています。国の在り方を決めるような重大な決断をするときはもちろん、人生で大きな決断をするときには、その事によるメリットやデメリットなど、可能な限り情報を収集して、いろいろな人の意見も聞き、最後は自分で考えて判断することが大切です。そして、結果もやはり自分で受け止めなければなりません。

また、英国でEU離脱に関して国民投票の可能性が示唆されたのは2013年でしたが、それから投票までの間に、国民が正しく判断できるだけの材料を英国政府が十分に提供してきたのかも気になるところです。

英国のEU離脱の是非を問うつもりはありませんが、今回の英国の状況を対岸の火事として眺めるだけでなく、伝える努力、知る努力が政府と国民双方に求められていることを肝に命じる必要があるように思いました。