東京大学の元総長で株式会社三菱総合研究所の小宮山 宏(こみやま ひろし)理事長が主宰するプラチナ懇談会に時折、出席させていただいています。
5月16日(水曜日)に行われた懇談会では、「線虫(せんちゅう)」によるがん検査の実用化に向けた取組について報告がありました。「線虫」という肉眼では見えにくい体長1ミリメートルぐらいの小さな虫(ひも状の線形動物)を使って、がんにかかっているか、かかっていないかを判断しようという試みです。
報告によれば「線虫」には、微量の物質であっても嗅ぎ分ける優れた能力があるということです。「線虫」は、がん患者の尿には近づき、健常者の尿からは離れる特性(化学走性)を持っています。そこで人の尿をシャーレ(ガラス皿)に垂らしてこの「線虫」を入れれば、きわめて簡単かつほとんど費用も掛けずにがんの有無が分かるということです。そして、後はどの部分ががんなのかということをしっかり診断すれば良いということになります。
この「線虫」を使ったがん検査の仕組みを考案したのは、ベンチャー企業の株式会社HIROTSUバイオサイエンス代表取締役の広津 崇亮(ひろつ たかあき)氏です。現在は日立製作所と組んで、この手法の実用化に向け努力しておられるということでした。
また、オーストラリアのクイーンズランド工科大学と共同で臨床研究も開始したということで、そう遠くない時期にこれが実用化されれば、世界中にとっての福音になるのかなと思います。
ちなみに「線虫」そのものは、土壌の中などあちこちにいる生き物です。「線虫」は、人間の100万倍ともいわれる犬と同等かそれ以上の嗅覚を持っているため、化学走性を利用して簡便に臭いに対する応答を調べることができるということです。また、飼育が容易なのも特徴で、寒天培地上で大腸菌を餌として飼育すれば、たった4日間で世代交代していくそうです。さらに、雄雌同体のため掛け合わせの必要はなく、冷凍保存により永久的に株を保持できるということで、何やら全てにおいて都合が良いという話になります。