渋澤健(しぶさわ けん)さんのレターからまた思うところがありました。以前にも御紹介しましたが渋澤健さんは、渋沢栄一翁の玄孫であります。「論語と算盤(そろばん)」など渋沢栄一翁の著作を引きながら、現実の様々な事象にどう関わるかということなどを、よくメールレター方式で関係者に送っておられます。今回はギリシャの財政危機に関してのお話をされていました。
遠く離れたギリシャでの出来事ですから、この問題に対する日本人の関心は高くありません。ギリシャの公的債務は約40兆円で、日本の約1,000兆円の国家債務の4%に過ぎません。しかし、ギリシャ国内では、正に銀行預金が支払い停止になるほどの大変な危機をもたらしています。そして、ギリシャの財政危機がユーロ圏を中心にヨーロッパ全土の信用不安につながるのではないかということで、全世界の株価にも影響を与えたぐらいです。
今、ギリシャが直面している状況と日本の国家債務の状況を比較してみます。日本の債務残高はGDP比2倍を超えており、これを返還することはなかなか困難でありますが、金利が1%でありますので、利払い費は10兆円で済んでいます。これが現在のギリシャのように15%の金利という話になってきますともう大変な世界になります。いつまでも今のような状況を続けられるわけはないのですが、借金の請求書が国民一人ひとりに送られてくるわけではありません。どうしても国民の関心は低いし、また日銀が市場から大量の国債を購入していることから財政当局あるいは国会議員、多くの識者の危機意識も薄いのではないかと思われます。
埼玉県の県債残高を見ていきますと、平成27年度末で3兆8,000億円程度の見込みであります。そのうち県が主体的に借りているのは2兆2,100億円程度あります。知事に就任した平成15年以来、4,000億円程度、16.6%減らしています。本気になれば確実に債務を減らすことも可能なのです。財政支出を抑えたために、埼玉県の経済活動が停滞したということもありません。内閣府の試算によれば、平成15年度から24年度までの間で、全国の県内総生産合計に占める埼玉県のシェアの伸び率は日本全国の中で、愛知県に次いで2番目です。むしろ、元気のいい県の一つだと思っております。財政支出を抑えながら企業誘致などを図って富を創ってきた成果と言えます。
地方自治体のように、意思決定が比較的迅速なところであれば、知事の提案と議会の議決で意思決定を行い、このように11年間で実質的に16.6%の県債を減らすようなことも可能なわけですが、国ではなかなかそれが難しい状況になっています。そういう意味で、この財政再建というのが多くの国民の方々の関心になっていかなければ、なかなか問題解決ができないのではないかと思っています。
渋沢栄一翁も、大正5年から大正13年の頃にかけて日本の国債発行が倍増していた当時、非常に心配しておられたそうです。渋沢栄一翁はまた、生活における富の担保とは、国・政府の信用だけではなく、私たち一人ひとりが思考停止に陥ることなく考え続け、一歩ずつでも自己実現のために行動することが重要と指摘しておられます。