世界各国の国歌の歌詞を御存じの方はそれほど多くないと思います。実は主だった国々の国歌は勇ましい軍歌調の歌詞です。「敵討ち破り」、「進め」、「血に飢えた敵」など、そういう類(たぐい)のものがあることを改めて確認してみました。
中国
「立て!立て!立て!心合わせ、敵にあたらん、進め、敵にあたらん。進め、進め、進め、進めよや」
フランス
「敵は血に飢えたり 立て国民 いざ矛をとれ 進め進め仇なす敵を葬らん」
イギリス
「おお神よ 我らが神よ 敵をけ散らし降伏させ給え 悪らつな政策と奸計を破らせ給え」
アメリカ
「おお激戦の後に暁の光に照らし出された星条旗が見えるか 夜どおし砲弾が飛びかった後に我らの星条旗が翻っている」
(注)歌詞は元住友銀行人事部審議役で文筆家でもある徳永圀典(とくなが こくてん)氏によります。
こんな調子です。一方、日本は「君が代は 千代に八千代に さざれ石の いわおとなりて こけのむすまで」。正に平和でおおらかで悠久で格調が高く、これらの国々と歌詞の内容が大きく異なっています。これらの国々は国家の方針の下に、国家に忠誠を捧げて戦意を鼓舞するような国歌になっています。悪政からの独立などの過程や、独立戦争を経た後の国家の形成時に、こういう勇ましい歌ができたのかもしれません。これに対して、日本の場合は悠久の昔から国家があり皇室があります。そして政権交代の際も、無血開城など、極力血を流さないようにしてきた歴史の中で、こうした「君が代」などが選ばれたのではないかと思います。
「君」の解釈についてもいろいろあります。天皇だという人もおられますが、夫婦でも夫は妻を「君」と言い、また妻は夫のことを「君」と言ったりしておりますので、共に栄えるというような意味合いもあるのかなと思います。そして「こけのむすまで」幸せにという意味合いがあるのかもしれません。
いずれにしても、外交交渉とはこうした戦いの記憶を国歌に残す国々を相手にするものですから、ゆめゆめ油断なきようにと思わざるを得ません。