今回も「悩ましい国語辞典」(時事通信社)から、「総花(そうばな)」について御紹介します。
 よく政策に対する評価として全体的にはバランスが取れていても、これといった特色がないような時に「総花的」な政策と言ったりします。
 実はこの使い方は間違いのようです。元来は、料亭や花街などで客が使用人など全員に出す祝儀のことを「総花」と言っていたそうです。お座敷に芸者さんを呼んだ時のお代を「お花代」と言ったりしますが、使用人も含めて全員に出すと「総花」と言ったそうです。「総花」の「花」は祝儀のことです。そこから、全ての関係者を満遍(まんべん)なく立ててあげること、あるいは皆に恩恵を与えるという意味で「総花」が使われるようになったようです。

 「悩ましい国語辞典」の筆者である神永暁(かみなが さとる)氏が編集に携わった「日本国語大辞典」では、大正時代の新語辞典である「現代大辞典」にあった「総花(ソウバナ)人気取り政略を云ふ」という例を引用しているようです。「総花的な予算案」とか「総花的な提言」などの言い方をお聞きになることがあるかと思います。これらは皆に恩恵を与えることを意図した意味として使われているものであります。

 しかし、最近では皆に恩恵を与えるという意味よりも、むしろ要点を絞らずに全ての事柄を並べた状態という意味で「総花」を使うことが広まっていると思います。実際、国語辞典の中にはこうした意味を載せているものも出始めているようです。ちなみに、私が愛用する講談社の「現代実用辞典」では、「総花」は「(1)一堂に祝儀を出すこと。(2)関係者全部の人に利益や恩恵をほどこすこと。」となっています。

 「総花」が料亭や花街での祝儀のことだったとは意外でした。そこから転じて、普段私たちが使っている「羅列的な」とか「めりはりのない」といった意味に変化している訳です。言葉は思いがけない変遷をたどるものです。