今回も「悩ましい国語辞典」から気になった言葉を御紹介します。
「世間ずれした人」という言い方があります。この「世間ずれ」は、本来、世間を渡ってきてずる賢くなっているという意味です。しかし、最近は世の中の考え方から外れているという意味だと思っている人が増えているようです。
この誤りは「世間ずれ」の「ずれ」を「ずれている」と理解していることから生じているようです。「世間ずれ」の「ずれ」は「ずれる」ではなく、世間で揉(も)まれて純粋さを失ったり、悪賢くなったりするという意味の「擦(す)れる」ということです。本来「世間擦(す)れ」であったものが「世間ずれ」と音が変化して表記されるようになり、「ずれ」の部分が強調され、感覚や考え方が他の人と隔たりがあると解釈されるようになったものと思われます。
2004年度の文化庁が実施した「国語に関する世論調査」では「世間を渡ってずる賢くなっている」という意味で使う人は51.4%、「世の中の考えから外れている」という意味で使う人が32.4%だったようです。
ところが、直近の2013年度の同調査では「世間を渡ってずる賢くなっている」で使う人が35.6%で、「世の中の考えから外れている」で使う人は55.2%でした。10年近くで逆転した訳です。しかも、10代では8割台半ば、20代でも8割近くが「世の中からずれている」という解釈をしているとのことです。このまま若い世代が年を重ねて世代交代が進むと、この言葉の意味が完全に変わってしまう可能性があります。
今のところ、辞書に本来の意味を掲げ、その上で補注か何かで「世の中からずれているという意味で使うのは誤り」などの一文を添えるしか手立てはないようですが、「悩ましい国語辞典」の著者である神永氏も、それだけではこの流れを食い止めることは不可能ではないかと指摘されています。
昔、古文の授業で、「おもしろし」は古典では「すばらしい」という意味であり、「すさまじ」は「つまらない」という意味だと教わりました。その時は、言葉というのは長い年月を経て意味が変化するのだろうと思っていましたが、短い時間でも意味が変化するのですね。