松平伊豆守信綱(まつだいら いずのかみ のぶつな)は、徳川幕府の老中として3代将軍家光と4代将軍家綱に仕えたことで有名です。また、忍藩主、次いで川越藩主に封じられた本県にゆかりの深い人物でもあります。城下町川越の整備をはじめ、江戸と結ぶ新河岸川や川越街道の改修整備、野火止用水・玉川上水の開削など、現在にも継承される見事な功績を残しています。官職名の「伊豆守」と、あまりに聡明なことから“知恵が出る”という掛詞で「知恵伊豆」という渾名(あだな)が付けられていたことも有名です。
この知恵伊豆こと松平信綱の「知恵」を取り上げた新聞記事を知人から教えていただきました。7月15日の公明新聞のコラム「言葉の遠近法」です。
川越藩領に属する入間郡は河川や沼に鯉が多いことで知られていました。ある町人が藩庁に毎年400両の運上金(税金)を納めることにより、鯉を獲って江戸で売ることが許されていました。この話を知った別の町人が「鯉の税金を年間600両納めるので、どうか鯉の利権を私めに」と頼み込んだそうです。
この報告を受けた信綱は、藩の役人を集めてこう言ったそうです。「運上金400両のところに600両も出すとは、鯉の値段を高くして稼ごうと考えているに違いない。これを認めては江戸の武家や町人に難儀を強いることになるから許可できない。もし正反対に運上金400両を200両に下げてもらう代わりに鯉の値段も安くしたいというのだったら考えてもよい。」
そして、「物価が少しでも高くなれば庶民が嘆くということを忘れてはならない。」と付言したそうです。信綱の目先の利益に捕らわれない、行政の本質を見抜いた考え方を示すエピソードです。
行政にとって、法律や条例の適正な運用が大事なことは言うまでもありません。しかし、立法の本旨は何かをよく理解した上で事に当たるのがプロの行政マンです。無用な負担を県民に強いるようであってはいけません。誰のための行政なのか、何のための法律なのかをよく考え、思考停止になることなく仕事を進めていかなければなりません。
この「知恵伊豆」のエピソードには大いに学ぶべき点があります。