渋沢 栄一(しぶさわ えいいち)翁は訓言集『慈善と救済』の中で、「国家の富が増すほど貧民が多くなることは、実験上の事実である。」と看破(かんぱ)されています。そして「この困難の人をしてよくそのところを得せしめるのがすなわち王道であって、同時に世の富豪家の鑑むべきことである。」と説かれています。
この言葉は、少数に富が集中する一方で、その他の多くの方が富の分配の恩恵にあずからないという各国の状況を正に言い表していると思います。そしてこのことは、現在の日本にも当てはまるようになっています。
2000年以降の状況を見ると、一世帯当たりの所得の中央値は2000年の500万円から2016年には442万円と58万円減っています。また、勤労者世帯の月当たりの可処分所得も緩やかに減少し、2000年の47万3千円から2016年には42万9千円と4万4千円減りました。その一方で、同時期の企業の内部留保は経常利益とともに増える傾向を示しています。
リーマンショックによって落ち込んだ経常利益は2010年以降増加を続けています。2016年には75兆円とリーマンショック時の2倍以上となりました。同時に内部留保(金融と保険業を除く全産業の合計)もマイナス3兆1千億円から29兆7千億円まで増えています。リーマンショックの前年と比較すると、金額にしてほぼ3倍、経常利益に占める割合は約2倍に膨らみました。
これは、勤労者の可処分所得は減っているけれども、企業の内部留保は増えているという状況を示しており、渋沢翁の教えとは逆のことが起きているといえます。その背景には、株主からの高い配当要求や企業買収からの防衛といった事情もあるようですが、そうだとすると経済のグローバルスタンダードが「王道」を困難にしているということになります。
なかなか難しい問題ですが、内部留保をいかに勤労者に回すかということの先に、日本の将来も見えてくるのではないかと思われます。