大阪大学の吉川 徹(きっかわ とおる)教授が、最近の著書「日本の分断切り離される非大卒若者(レッグス)たち」(光文社新書)において、大規模な社会調査の分析結果に基づく興味深い指摘をしています。
現代の日本社会において、現役世代の約半分を占める大卒の人たちと残りの約半分を占める非大卒の人たちとの間に、深刻な分断が生じつつあるというのです。
吉川教授らが行った社会調査の分析結果によると、大卒の人の多くは大卒の人と結婚し、非大卒の人の多くは非大卒の人と結婚しているそうです。そして、大卒同士の夫婦の8割近くが子供にも大学以上の教育を受けさせたいと考えていますが、非大卒同士の夫婦で同じように考えているのは半分強にとどまるそうです。
仕事の面では、大卒の男性の多くが専門職や管理職、事務職に従事している一方、非大卒の男性は半数以上がブルーカラーや農業に従事しているそうです。
家庭でも職場でも、大卒の人は大卒の人、非大卒の人は非大卒の人とばかり接することになりがちで、お互いに理解し合うことが難しくなっているとみられます。
今に始まったことではありませんが歴然とした経済的格差もあります。例えば、40歳から50歳代の大卒男性と非大卒男性とを比べると、月当たりの就労時間は同程度であるにもかかわらず、平均年収は大卒男性が非大卒男性の1.41倍になっているそうです。
意識の面でも分断があります。近年、「若者の政治離れ」といったことが言われていますが、これは非大卒の若者には当てはまりますが、大卒の若者には必ずしも当てはまらないそうです。逆に「若者のアルコール、タバコ離れ」については、大卒の若者には当てはまりますが、非大卒の若者には当てはまらないそうです。
アメリカやヨーロッパ各国では社会の分断が問題になっていますが、日本でもこのまま分断が深まれば社会全体に悪影響が及ぶことが懸念されます。
吉川教授は、特に20歳から40歳代の非大卒の男性について、総じて不利な暮らしを強いられながら拍子抜けするほどおとなしく活気と意欲に乏しい状態にあると心配しています。そして、彼らを「レッグス(LEGs:Lightly Educated Guys= 軽学歴の男たち )」と呼び、社会の「宝」と捉え、政策的な支援を行うべきであると訴えています。レッグス(脚)という言葉には、日本社会を下支えしている人たちという含みもあるそうです。
私は、一番の問題はチャンスの格差だと思います。チャンスの格差をなくしていくことで社会に希望と活力が生まれていくと考えています。