引き続き、寺島 実郎(てらしま じつろう)先生が御自身の番組(BS11「寺島実郎の未来先見塾」)で紹介されていた日本の実体経済の状況を追っていきたいと思います。
寺島先生は6月1日(金曜日)の番組で、「アベノミクスの客観的評価」としていくつかのデータを紹介しています。
日本銀行が供給する通貨の量、いわゆるマネタリーベースでは、アベノミクスの第一の矢である「異次元の金融緩和」によって、2012年の121兆円から2017年の458兆円(いずれも年間平均)へと4倍近くに増えました。
一方、その間に市中銀行がそうした通貨の供給量に見合った形で貸出残高を増やすことができたのかといえば、なかなかそうもいかなかったようです。日銀による市中銀行からの国債買入れなどによりマネタリーベースは大幅に増えたものの、市中銀行の貸出残高は2012年の397兆円から2017年の448兆円(いずれも年間平均)へと13パーセントしか増えていません。この間の日本の経済活動は、政府や日銀の期待ほど活発ではなかったと思わざるを得ません。

そこで株価の推移を見てみると、日経平均株価の終値平均で2012年は9,108円、2017年は20,209円と、5年間でおよそ2倍になっています。マネタリーベースの増加に合わせて株価が上昇し、株価が上がることによって企業の含み資産が増えていること、そして株式を所有されている方々の含み資産が増えていることは恐らく間違いがありません。
しかしその一方で、株式を持っている方々は国民の17パーセントに過ぎませんので、それ以外の方々にはそのこと自体はあまり関係ないと言うこともできるでしょう。

こうした数字を見てくると、実体経済はまだまだ動いていないことがわかります。勤労者世帯可処分所得は、2012年平均の42万5千円から2017年平均の43万4千円へと9千円しか上がっていません。家計消費支出にいたっては、2012年平均の28万6千円から2017年平均の28万3千円へと3千円減らしています。安倍内閣になって、家計の消費支出はむしろ減っているのが現実だということです。
5年間で株価は上がったけれど、勤労者の可処分所得は9千円しか増えず、消費支出は3千円減っている。そういう意味で言えば、寺島先生のアベノミクスの評価はやや厳しいものといえるでしょう。アベノミクスはマネタリーベースの大幅増によって円安を誘導し、その効果として輸出関連企業の大幅増益と株価の引き上げが起こりました。その結果、輸出関連企業や株式を持っている個人は利益を得ましたが、その他の人たちはどちらかといえばほぼ現状維持、もしくはマイナスであったということです。

アベノミクスの評価として、その効果が地方に行きわたっていないということがよくいわれますが、こうした数字からは、確かにはっきりとしたトリクルダウンが起こっていないことがうかがわれます。
アベノミクスの第一の矢が打ち出されてから5年半が過ぎようとする中、何か違うアプローチが必要なのかもしれません。