『プレジデント』10月16日号の「ビジネススクール流 知的武装講座」に、「獺祭はなぜ日本一の純米大吟醸酒になれたのか?」という多摩大学大学院の徳岡 晃一郎(とくおか こういちろう)教授のコラムがありました。

徳岡教授によれば、「獺祭」は純米大吟醸酒として日本一の出荷量を誇り、海外にも輸出されて人気を博しているとのことです。「獺祭」を生み出したのは山口県にある旭酒造株式会社会長の桜井 博志(さくらい ひろし)氏。3代目社長を継いだ1984年には、ほぼ倒産状態だったという零細酒造を再建し、日本酒のグローバルブランドを築きました。その背景には、「徹底的においしい酒を造ろう」という桜井氏の熱い思いと、そのために日本酒業界の様々な「しがらみ」を打破するための知恵と執念があったそうです。

従来、仕込みや醸造などのプロセスは、杜氏(とうじ)の暗黙知(あんもくち)頼みで冬場のみ行われていました。そのプロセスをコンピュータで制御することにより、通年での酒造りを可能にし、誰が作業しても品質を維持できるよう、技術の標準化を行ったそうです。
また、原料となる山田錦を増産するため、生産農家へITを用いた収穫管理支援を行うなどして、おいしい日本酒を十分供給できる体制を構築したそうです。合理的な経営に変革し、酒造経営のビジネスモデルイノベーションを実現したわけです。

一般に、酒造りには微妙な感覚というものがあって、杜氏の混ぜ方、管理の仕方によって出来・不出来が生じるそうです。極めて繊細な造り方をするのが日本酒であるとも言えるかもしれません。そういうものをコンピュータで品質管理するという仕組みに変えることによって、製品の均質化を実現したそうです。正に「獺祭」の出荷量が増えても、味が変わらないという秘密はここにあったのです。

かつて、幻の酒と言われるようなお酒がヒットした途端に味がおかしくなってしまったことがありました。一定程度の量であれば品質管理ができたのでしょうが、製造を拡大したことにより、酒の品質管理ができなくなった例の一つだと思わざるを得ません。

杜氏の力が要らないということになってくると、桶の中をかき混ぜるような姿が見られなくなり、酒造りの風景が変わるのかもしれません。世の中はどんどん変わっていきます。