「吸引力の変わらないただ一つの掃除機」のCMで有名なダイソン社のサイクロン掃除機。遠心力を利用してゴミの粒子を分離する技術で、紙パックの目詰まりが原因の吸引力低下がないこの革新的な掃除機は、現在、世界67か国で販売されています。
本国のイギリス国内では4軒に1軒がこの掃除機を使っているとも言われています。しかし、開発当初、この技術は誰にも相手にされなかったそうです。開発者のジェームズ・ダイソン氏が試作品を持って、イギリス、アメリカのメーカーに売り込みに行っても、どの会社も「それほど良い技術ならば、フーバー社(アメリカの大手家電メーカー)が開発していないわけがない」と門前払いされたそうです。
そんな時、イギリスから遠く離れた日本のシルバー精工株式会社が、国際見本市に出品されていたこの掃除機に注目して、ダイソン氏とライセンス契約を結び、製品第一号を通信販売で売り出したそうです。この掃除機は大ヒットとなり、ダイソン氏はシルバー精工から得たライセンス料で会社を立ち上げます。これが今日のダイソン社です。ダイソン氏は、シルバー精工の若い技術者たちが彼の新しい技術に興味を示し、その説明を興奮して聞いている様子を見て深く感銘を受けたと後に語ったそうです。
「良い技術や製品は大手の企業でなければ生み出せるはずがない」そうした 先入観にとらわれることなく、例え相手が無名であっても、その技術の持つ「本質」に着目して画期的な製品を世に送り出したのが、他ならぬ日本の企業であったことがうれしいですね。日本の製造業に脈々と受け継がれた「ものづくりの遺伝子」のなせる技でしょう。
改めて、新しい技術を見逃したりしていないかどうか、我々も大国ばかりでなく新興国にも目を向けたりしながら、よく見る必要があると思います。売り込みに来た名もない会社を門前払いしてはいけないと感じました。
ところで、ダイソン氏が成功するまでの間、家族の生活を支えたのがダイソン夫人であったそうです。彼女は収入のない夫に代わり、絵画教室で絵を教えて生活費を稼いでいました。子育てをしながら生活を切り詰め、住宅ローンや夫が銀行から借りた試作費用まで、実に15年にわたって支払いを続けていたそうです。本当に変わらなかったのは、吸引力ではなく、ダイソン夫人の夫への信頼と深い愛情だったに違いありません。成功の陰にすばらしい内助の功があったということです。