今後に向けて日本が持続的に成長していくためには人口問題に注視をする必要があります。要するに人口が着実に増えていく、もしくは最低限減らない状況を見通すことができない限り、投資家の心理は縮んでいくと思わざるを得ません。ただし、今すぐに出生率が向上したとしても、赤ちゃんから大人になるまでには時間が掛かるため、少子化対策が実を結ぶのには20年は掛かると思います。そういう意味で、少子化対策は息の長い作業であり、丁寧にコツコツと取り組んでいく必要があります。

 それ以上に私たちが認識しなければならないこととして、日経BPセクションの「2016 世界はこうなる」のコーナーに(株)盛之助代表取締役の川口盛之助(かわぐち もりのすけ)氏による興味深い記事がありましたので御紹介します。

 陸上競技のマスターズ部門では、高齢になるほど日本人スプリンターの活躍が目覚ましいそうです。100メートル競走の105歳部門で京都の宮﨑さんが42秒22の世界記録を樹立したというニュースは記憶に新しいところです。もともと強い水泳競技となれば圧倒的に強い傾向があります。65歳以上の競泳世界記録の4分の1は日本人のシニアが保有しているそうです。元気な老人たちが日々泳いだり走ったりすることができるようになったことは、日本の社会が質的に豊かになったことを意味しています。

 元気を持て余す高齢者がいる一方、その家族たちも、より高度な豊かさを実現した「先々進的な社会」ゆえの悩み事を抱えているそうです。例えば、お父さんは「加齢臭」で悩み、お母さんは近所との「ママカースト」争い、一応就職している娘の部屋は「ゴミ屋敷」状態でいまだに「パラサイトシングル」、息子は友人ができず、学食で「ボッチ飯」等々。こうした悩み事などは少し前の時代から見ると、一見贅沢な悩みに思えるけれども、それこそ正に大多数の国民にとって現実の課題なのだと言います。川口氏はそのことを「贅沢な弱者」と表現されています。

 「なるほど」と思いました。豊かな時代には行政ニーズもビジネスチャンスも贅沢な悩みの中に潜んでいるということなのでしょうか。一つ付け加えさせていただくとしたら、日本社会全体で見たときの課題として、元気な高齢者が活躍できる時と場所を得ていないという課題があると思います。一般的に「弱者」と考えられている高齢者も実は多くの人が元気です。そのパワーを生かしきれていないことは、社会としての「贅沢」と言えるのかもしれません。

 埼玉県でこれから推進していく「シニア革命」は、正にこうした「弱者」に能力と経験を活用できる時と場所を得ていただき、「強者」になってもらうことではないかと思います。