国が進めている地方創生の一環として、首都圏にある国の機関を地方に移転させることが検討されています。埼玉県でも独立行政法人国際交流基金の附属機関であります日本語国際センターなどが移転の候補になっています。そして日本語国際センターの受け入れを希望しているのは大分県ということです。
私は、国の機関の地方移転は、国益との関係の中で検討を進めるべきであると考えています。地方の自治体としては、国の機関が移転して来ればその職員や関係者が移住し、人口が増えたり、交流人口が増えるなどのメリットがあると考えているのではないかと思います。
一方、移転に反対する地域は、これまでの実績や歴史などが水泡に帰してしまうというような考え方から、反対論が多いのも事実です。
今回、移転候補に挙がっている日本語国際センターの目的は、諸外国において日本語を学ぶ人たちに、質の高い日本語を教えることができる自国の日本語教師を養成することにあるわけです。
世界中で日本語を学びたい人たちがたくさんいる、しかし教える人が少ない。それならば、それぞれの国が自国の日本語教師を日本に送り、日本語の教え方を学び、そして優れたスキルを身に付けた日本語教育の専任講師となって母国に戻ってくる。日本にとっては日本文化も含め、日本のファンを増やしていく。そして日本語が海外に普及していく。こういうメリットつまり国益があるわけです。
それゆえ、どの場所が外国の人たちにとって便利か、そしてその人たちを教える語学の専門家はどの場所であればたくさん集めることができるのか、そうしたことを論点に考えるべきなのです。
日本語国際センターの設置が検討された1980年代、当時も東京ばかりが発展してはいかがなものかということで、設置場所についての議論がありました。
しかし、やはり海外から日本に来て学ぶ人、その人たちに教える日本語の専門家の都合を考えれば、東京からあまり離れても学ぶ人も教える人も困るということで、交通の便の良い埼玉県や神奈川県が候補になり、最終的に埼玉県に落ち着いた経緯があります。
このように、そもそも論からも、この日本語国際センターの位置というのは、まさしく学ぶ人と教える人たちにとって都合のいい場所がどこなのか、それに尽きるわけであります。
そういう意味で、私は大分県が適切とは思っておりません。1週間か2週間くらい特別講義を大分県で行うというのであれば日本語教育の専門家も都合をつけることが可能かもしれません。しかし日本語国際センターの講師はほとんどが女性であり、仕事と家庭を両立させながら教えておられます。
また、外国人向け日本語教育のスキルを持つ講師を新たに確保することは簡単なことではないと思います。そういうことを考えれば、おのずからこの結論ははっきりしています。
また、理化学研究所の移転の話も取り沙汰されていますが、大きな装置や機器のある施設を簡単に動かすことは極めて困難ではないかと思っています。それなら取りあえず、日本語国際センターのような機器や機材の無い機関であれば、地方に移しても問題ないであろうというのもこれまた安易な考え方で、そんなことで物事を決めてはいけません。正に日本語の海外への普及というのは国益でありますので、国は国益という観点から全体を考え、地方創生とは別の枠組みで考えるべきです。