2017年12月2日(土曜日)の週刊東洋経済のコラム「経済を見る眼」に、三品 和弘(みしな かずひろ)神戸大学大学院教授が「規模」と「優位」の間の因果関係について書かれた文章の一部を御紹介します。
教授は「一見したところ、『規模』に勝る企業が無類の強さを発揮する業界は枚挙(まいきょ)にいとまがない。自動車しかり、スマートフォンしかり、コンビニしかりである。『規模』を原因として、結果が『優位』になる。そう考えたくなるのも無理はない。」とした上で、これが因果関係の誤った理解であることを示す事例を次のとおり挙げています。
「米国に初めてトヨタ自動車の『クラウン』が輸出された1957年時点で売上高を比較してみると、トヨタは400億円強で、米GMは4兆円であった。GMのわずか100分の1という『規模』から出発したのに、トヨタ生産方式という『優位』を築くことで、トヨタはGMを上回る『規模』を手に入れたのである。同様に、米アップルはハードウエアとオペレーティングシステムの統合を「優位」としてソニーを追い抜いた。セブン-イレブン・ジャパンも共同配送センターを核としたロジスティクスを『優位』としてローソンを寄せ付けない。」
こうした事例から、教授は「『優位』が『規模』を支えると理解することが正当である」とし、「原因と結果を取り違えて『規模』が『優位』を生むと思い込む愚が、私の言う因果混同にほかならない。」と言っておられます。そして、「優位」を手に入れるために「規模」を追うことが悲劇を引き起こすとして、次のように指摘しています。
「『優位』を生まない『規模』追求は必ず徒労に終わる。ゆえに社員の生産性も企業業績も犠牲になる。電通社員の痛ましい自殺やヤマト運輸の未払い残業はその典型であって、決して働き方の問題ではない。スジの悪い戦略こそ見直してしかるべきであろう。」
教授は、「経営戦略の使命は『規模』によらない『優位』の構築と、『優位』に見合った適正規模の実現にある」と言っておられます。極めて含蓄のある分析であり、私たちは因果を混同しないよう肝に銘じる必要があると感じました。