自動車やテレビ、コンピューターは今でこそ私たちの生活に当たり前のように溶け込んでいますが、これらの革新的な製品が開発された初期の頃には、一体どのような市場予測がなされていたのでしょうか。経済評論家であり株式会社アゴラ研究所の代表取締役社長でもある池田信夫(いけだ のぶお)氏が、著書『イノベーションとは何か』(東洋経済新報社)の中でその紹介をしています。

 「馬車は確立したビジネスだが、自動車は珍しいだけだ。こんな一時の流行に投資すべきではない」ヘンリー・フォードの弁護士の言葉(1905年)だそうです。
 「テレビの流行は6ヶ月以上は続かないだろう。人々は毎晩木の箱を見るのに飽きるだろう」20世紀フォックスのプロデューサーの話(1946年)だそうです。
 「家庭でコンピューターを使いたがる人がいると考える理由がない」かつて存在したアメリカを代表するコンピューター会社の一つであるディジタル・エクイップメント創立者のケン・オルセンの言葉(1977年)だそうです。
 これらを例に、池田氏は「顧客に忠実な企業は広告代理店や調査会社を使ってマーケティングリサーチをやらせるが、そういう既存の常識に依存した市場調査はあてにならない」と述べています。

 さらに、「イノベーションは技術革新ではない。第一義的には経営革新なのである」、「アメリカで行われたベンチャー企業100社以上に対する聞き取り調査でも、アップルやグーグルのように既存技術の組み合わせによって優れたサービスが実現される一方、特許をたくさん持っているが収益の上がらない企業が多い」、「凡庸な技術が優秀なビジネスモデルによって成功するケースはあるが、その逆はない」とも指摘しています。

 なるほどと思いました。日本の企業は「技術で勝って商売で負ける」とよく言われます。新技術だけではなく、むしろあらゆる先入観を取り外して、既にある技術を奔放に組み合わせて新たな価値を生み出すこと。それがイノベーションの本質であり、優れたビジネスモデルにつながるということなのでしょう。

 一般的にイノベーションは技術革新というイメージが強くて、技術がより革新されればそれが利益につながるようなイメージもありますが、それよりもむしろ、新しいビジネスモデルをどう作るかにかかっているようです。幕末当時、薩摩と長州は絶対一緒にならないというのが既存の概念でしたが、それを一緒にさせた坂本龍馬の発想が倒幕の鍵になったのと同じなのかもしれません。