10年後をみすえ日本をリード
2015年、新しい年を迎えました。昨年は記録的な大雪やそれに伴う農業被害、また4月から実施された消費税の増税などの逆境の中で、圏央道開通を見込んだ企業誘致や積極的な女性活躍支援などにより、埼玉経済は明るい兆しを見せました。さらに埼玉県とゆかりの深い富岡製糸場と絹産業遺産群が世界遺産に登録され、11月には細川紙の手漉き技術がユネスコ無形文化遺産に決定されるなど埼玉の歴史が見直された1年でもありました。今年はどんな1年になるのでしょうか。上田清司埼玉県知事が「埼玉発 地方創生」をテーマに今後の県政の展望について語りました。
上田知事にテレ玉の二階堂絵美アナウンサーがインタビュー
2014年を振り返って
無形文化遺産と若田船長
聞き手
あけましておめでとうございます。
知事
県民の皆さん、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
聞き手
昨年は埼玉県にとって、どのような年だったでしょうか。
知事
いい年ではありましたが、2月に大雪被害がありました。特に花やキュウリ、トマト、イチゴといった農家のビニールハウスなどで大変なことになりました。大規模化して熱心にやっている人ほど被害が大きかったのですが、国や埼玉県、市町村の手厚い支援の下、再建できる仕組みができまして、7割ぐらい再建に着手されている状況です。
6月に世界遺産となった群馬県の富岡製糸場ですが、実は脚本と監督、主演男優がみんな埼玉県民なんですね。渋沢栄一翁がこの工場設立のほとんどに関わりまして、脚本と監督といったところです。主演男優の初代場長は尾高惇忠さんという、渋沢翁のいとこで翁の学問の師でもあった方です。ただし舞台が埼玉県ではなく群馬県で残念だったんですが、日本の絹産業の発祥の地が富岡だけでなくて、埼玉県北部の方にもしっかりつながっていることが分かっていただけるので、とてもうれしい話だと思います。
11月になって、小川町と東秩父村で作られています「細川紙」の手漉き技術がユネスコの無形文化遺産に決定されました。これもとても素晴らしい、良いニュースです。
そして、宇宙飛行士の若田光一さんが3月に国際宇宙ステーションのコマンダー(船長)に就任し、世界中から選ばれた宇宙飛行士のリーダーになりました。その任務を果たし無事帰還されたことは、何よりもうれしい出来事でしたね。
聞き手
若田さんは8月、地元のさいたま市でパレードをしまして、県民の皆さんと共にとても盛り上がりましたものね。
知事
こういった方がいらっしゃると、特に小中学生にとっては宇宙への夢が広がりますよ。
国内産のコウゾ(クワ科の植物)だけを原料とし
伝統的な製紙用具を使用して作られる細川紙
キーワードは「元気」
企業進出ニーズトップクラス
聞き手
県政では昨年、どのような取り組みに力を入れて、その成果についてはどんな風に感じていらっしゃいますか。
知事
埼玉県は「元気」というのをキーワードにしています。平均年齢が比較的若い。それから交通のロケーションがいいんです。3月には北陸新幹線が長野から金沢まで伸びて、今までの長野新幹線が金沢まで行く。東北、ミニ新幹線方式の山形と秋田、そして上越の各新幹線も県内を通っています。宇都宮線と高崎線は上野駅止まりじゃなくて東京駅まで乗り入れ、東海道線と直通になるんですね。そして高速道路網も東京外かく環状道路というのは埼玉県内しかできていない。関越道、東北道、常磐道、さらに圏央道が徐々に開通してきていますので、本当に交通のネットワークが便利なんです。
そうしたこともあって、企業立地のニーズが高い県なんです。実は2002年からの10年間を見てみますと、本社の数が、転入転出はあるんですが、1324社の純増で日本のトップ、ダントツの1位なんです。
また、大手の企業が、工場を新設・移設する場合にどこがいいかをアンケート調査したら、1位は海外。2位が愛知県で3位が埼玉県なんですね。国内で2番目と。ただし、埼玉県に工場が来ているかというと、実際は5、6番目に多い。埼玉県も土地が高いんで、他の県に少し譲るようなところもあります。ただ、希望は日本国内で2番目に多いということですね。
聞き手
もっと多くの企業に埼玉の立地条件の良さを知ってもらいたいと思いますよね。昨年、大阪へトップセールスに行かれましたが、感触はいかがですか。
知事
もう5年ぐらい、年2回ほど大阪へトップセールスに行っています。「二眼レフ」ともいうのでしょうか、関西圏の人たちは拠点を大阪にも置きたいけれども、東京周辺にも置きたいという希望があってですね。東京周辺では埼玉が一番いいということで、非常に反応がいいんです。関西圏から東京圏、なかんずく埼玉県という形で企業がどんどん立地しているんですよ。
増える企業の海外進出「現地デスクで後押し」
聞き手
県内企業の中には海外進出を考えている企業もたくさんあるかと思います。知事は昨年、タイやベトナムを訪問されましたが、手応えはいかがでしたか。
知事
先ほども申し上げましたが、企業の工場新設地の希望は第1位が海外なんです。県内企業も海外進出は多いのですが、空洞化してる訳ではありません。現地に行かれる日本の方は、例えば1000人の工場であれば5、6人だったりするんです。海外で利益を出して連結決算で日本の本社にもってくれば、日本全体としてはプラスですから、あながち悪い訳ではありません。
日本の、特に埼玉の中小企業、中堅企業が海外に進出される場合、どうしてもノウハウが弱い。そこで、埼玉県では、ベトナム政府、タイ政府と協定を結んでいます。さらに商慣習や税制も違いトラブルになることもあるので、県が企業を支援できるように現地にサポートデスクを作っています。現在、ベトナムのハノイとタイのバンコクで埼玉県内の進出企業にいろいろアドバイスをしたり、支援を一生懸命やっています。また、現地での交流もなく仕事をされている方も多いので、現地で「埼玉県同窓会」のようなネットワークを作り、情報の交換をしたりビジネスのつながりを持つなど、非常にいい傾向があります。現地の皆さんが埼玉県を信頼して、いろんなお問い合わせをされています。
今後の県政について
三つの柱で地方創生
聞き手
今後の県政について、どのような視点、テーマで取り組んでいこうと考えていらっしゃいますか。
知事
政治や行政は現場対応能力みたいなところがあるんですが、本来、政治は未来を見なくてはいけない。10年後どうなるのか、50年後どうなるかというトレンドを見て先手を打たなければいけないんです。例えば、生産年齢人口が減り、これまでと同じような経済規模を維持することができないということであれば、女性の社会参加を促すような仕組みをたくさん作っておこうじゃないか。あるいはシニアの人たちにもっと頑張ってもらえるようにするには、やっぱり健康長寿でないといけないということで、埼玉県はウーマノミクスプロジェクトや健康長寿プロジェクトを進めています。これは正に10年、20年先の世界を考えているんです。
聞き手
その生産年齢人口の減少のほかにも危惧されていることがありますか。
知事
地方をどう強くしていくかというのが課題になっていますし、とりわけ団塊の世代の人たちが卒業していくと、その人たちを支える医療や年金の負担が重くなる。若い人たちはそれを心配すると思うんですね。だから、シニアの人たちに頑張ってもらう健康長寿の施策もあります。でも基本的には、アベノミクスで一番欠けていると言われている成長戦略の中で何が必要かというと、日本の強みである先行して新しい産業を作っていくことなんですよ。先端産業をどう作っていくか。それと、雇用の8割を占めるサービス産業の生産性をどう上げるか。生産性の低いところは給料も少ないので、生産性を上げる仕組み作りをやっていかなくてはいけない。これは行政も同じです。行政こそがもっと生産性が高くなくてはいけないと思っています。
今後の10年を見据えて、生産年齢人口が減少していく危機の中で、厳しい状況に対応する三つの柱があります。「生産年齢人口減少への取り組み」「次世代産業の育成」「企業の生産性の向上」です。
三本柱(1)生産年齢人口減少に対応「女性の社会進出を支援」
聞き手
「生産年齢人口の減少への取り組み」として、どのようなものがありますか。
知事
女性の社会参加なんですが、出産や子育てという大きな仕事があります。もちろん、子育ては女性だけ、母親だけでやるものでもない。社会全体で取り組むというように変化していかないとだめだと思っています。例えば、会社も子育て中は勤務時間を短くする。あるいは子供の保育所への送り迎えのために、勤務スタートを遅くして早く帰れるようにするなど柔軟な働き方を企業が作っていかないと、そういう文化を作っていかないと女性の能力、才能を生かすことができないと思っています。
聞き手
制度面の充実化はもちろんなんですが、知事などが率先して発信し続けていただけることで、周りの理解が深まっていくことが大事だと思うのですが。
知事
女性が、今まで蓄積されたキャリアとかを失うのは寂しいと思います。それを補うには企業や社会全体で支えていくことですね。
週休2日制も最初からできた訳じゃない。最初は大企業と公務員だけで、中小・零細企業は土曜日は休みじゃなかった。でも、世の中が週休2日制になってきたから、せめて月1回、土曜日を休もう。そのうち隔週になり、そして土日休みになりました。それと同じように、比較的余裕のある企業から女性の働き方、つまり出産、子育て中は多様な働き方を認めてあげる。そのような企業がどんどんできればいつの間にか、そうしないと人が集まらないとか、いい人材がこないとかで、おのずから浸透していくんですね。それが私の言うウーマノミクスプロジェクトの肝であり、女性の社会進出の肝でもあるんです。
女性キャリアセンターでのカウンセリングの様子
・ウーマノミクスプロジェクトとは?
女性の活躍によって経済を活性化することを目的とした、県が行う女性の就業支援や企業への啓発活動などの取り組み。女性が働くことで消費・雇用などの好循環を生み、多くの人がいきいきと輝く社会を目指す。
三本柱(2)次世代産業の育成「先端産業で成長の循環を」
聞き手
「次世代産業の育成」について、先端産業創造プロジェクトというのは期待が高まりますね。
知事
ナノカーボンというのをご存知ですか。銅の100倍くらい電気を通しやすく、軽くて鉄よりも10倍以上強い。夢の素材としてさまざまな分野での活用が期待されています。昔は鉄鋼生産額がその国の産業の強さを示していたんですが、これからこのナノカーボンの生産額がその国の強さになるかもしれないんです。鉄よりも強く、錆びなくて軽い。鬼に金棒じゃないですか。そういうものがどんどん多様な分野に用いられ、いろんな部品として使われるようになっていくことが一つ。
それから人類が長く生きるようになってきて、医療機器とか医薬品などの医療に関わる産業も次世代産業の一つなんです。ただ現在は、製薬メーカーや医療機器メーカーは日本がトップリーダーではないんですね。ぎりぎりベスト10に入っているぐらい。日本がベスト3ぐらいに入らないといけない。
さらに次世代型住宅も裾野が広いんですね。一軒の建物の中にいろんなものが入る訳ですから、車以上です。車は3万点の部品があると言われてますけれども、家はもっとありますから。次世代型住宅は、全ての電気を自分の家で作ることができるというエネルギーの地産地消。それには高性能な次世代型の蓄電池が必要ですね。これまでは、太陽光発電など家庭で電気をおこすことはできますが溜められる量が少ないので、足りない分を供給するため電力会社がタービンを回さなくてはいけない。そのために水力や火力、原子力を使ったりしている。もし蓄電池の機能が高ければ、太陽光発電だけで十分溜めて使うことが可能になるかも知れない。そういう蓄電池の開発などの次世代産業を育成していく。
埼玉県は都道府県で唯一、(独)産業技術総合研究所、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と三者で組んでいるんです。企業の研究開発や商品開発に技術や資金を支援していき産業を興していけば、そこに雇用が生まれる。先端産業であれば一番先を行っている産業ですから商品の価値も高く、給与も高い。商品もたくさんできる。こういう循環を作っていく必要があると思っているんですね。
聞き手
未来の可能性が広がって行きそうですね。
知事
結構、いい線いくんです。ロボットなんかもそうです。
全国から参加者が集まるナノカーボン先端技術交流会
・次世代産業とは?
日本の競争力を高めるため、地方自治体が産業振興の主役になる「通商産業政策の地方分権化」の中で取り組む、ナノカーボンや蓄電池などの新しい技術の産業。県は企業対象のセミナー実施や補助などの支援を行っている。
三本柱(3)企業の生産性の向上「サービス産業の経営革新」
聞き手
「企業の生産性の向上」について教えてください。
知事
実はですね、車関係などの産業の生産性は高いのですが、国内の雇用の8割を占めている介護や医療などのサービス産業は、世界の水準ではとっても低いんです。生産性が低くて給与が上げられない、人が集まらないという悪循環になって行っているんですね。やっぱり生産性を上げることで給与が高くなり消費が始まっていく。そういう循環をもっとやっていかなくてはいけないんです。
コメは1000平方㍍で作っても10000平方㍍でもトラクターが必要ですが、広い方が効率がいい。農業も規模の拡大を考えなくてはいけない。
消費者に評価される品質の良い野菜をどう作るか。そして流通の過程でどれだけ鮮度を保てるか。どんどん工夫して課題を解決し、付加価値を上げていく。こういうことをたくさんできるようにならないと、本当の意味で産業は強くならない。日本の産業はその部分が弱いんですよ。
あらゆる部門での生産性向上が必要です。働き手が減っていく中で経済成長を続けるには、生産性向上が欠かせません。とりわけ日本のGDPや雇用の中心を占めるサービス産業の経営革新が不可欠です。この問題に官民協力して取り組む必要があります。
2015年の抱負
人材育成で成長持続を
聞き手
埼玉県のリーダーとして、あらためて今年の抱負と意気込みを聞かせてください。
知事
埼玉県が、あるいは日本がこれからも持続的に成長するには人材育成が一番大事だと思っています。GDPを上げるのに一番貢献する分野は、法人税の引き下げでもなく、TPPへの参加でもなく、世界トップレベルの学力とする調査もあります。健康で元気な子供たちが、モラルも高く、どんどん育っていく。そういう人材の育成こそが大事だと思っています。この人材育成も埼玉県はしっかりやっています。平成23年度から、10億円という規模でグローバル人材育成基金を設置し、毎年280人前後の若い人たちを世界へ送り出しています。もう4年間で計1100人。この規模は東京都や大阪府よりもはるかに多く、国や日本中の都道府県が埼玉県を見習うと思います。正に人材育成を、あらためて日本中が考える時がきたんじゃないかと思っています。そういう意味で一番大事なことは、最後は人に戻る、人材の育成ですね。
現地の学生と交流し、大きく成長する留学生