2018年のビジネス書大賞の準大賞に輝いた山口 周(やまぐち しゅう)氏の著書『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』を読みました。

山口氏によれば、グローバル企業が世界的に著名なアートスクールに幹部候補を送り込む、あるいはニューヨークやロンドンの知的専門職が早朝のギャラリートークに参加したりしているのは、単に教養を身に付けるためではないということです。彼らは、極めて功利的な目的のために美意識を鍛えていると山口氏は言います。
なぜならこれまでのような分析、論理、理性に軸足をおいた、いわばサイエンス重視の意思決定では、今日のように複雑で不安定な世界でビジネスの舵取りをすることは難しいとよく分かっているからです。

もとより、正しく論理的、理性的に考えていくと他人と同じ結論に至ることが多く、それは差別化の消失、パターン化につながります。現在は、世界中が自分らしい生き方を実現したいという「自己実現欲求の市場」となっています。そのような市場では論理的に機能や価格を設定する能力よりも、人の承認欲求や自己実現欲求を刺激するような感性、美意識が重要になるということです。

そこで彼らはアートを学ぶことでそれを磨いている。山口氏によれば絵画などを様々な視点から見る力を鍛えると、サイエンスがもたらすパターン認識から自由になれるということです。あるいはまた、哲学に親しんだり、詩を読んだりすることで優れた直観力などを磨くこともできるとしています。

以前に親しい先輩から「6つの感性」というものを教えていただきました。(1)機能だけでなく「デザイン」、(2)議論よりは「物語」、(3)個別よりも「全体の調和」、(4)論理ではなく「共感」、(5)まじめだけでなく「遊び心」、(6)モノよりも「生きがい」。こうした6つの感性が必要だというものです。

私たちが県民の皆さんに何かを訴える時にはこうした感性が必要になる、あるいは論理にのみ軸足を置いても県民の心には響かない場合もある、ということを改めて感じたところです。