『週刊東洋経済』9月3日号の「経済を見る眼」というコラムに、慶応大学の太田聰一(おおた そういち)教授が「スポーツと個人の生産性」というタイトルで文章を寄せられていました。

もとよりスポーツが健康水準の向上に役に立つということは一般に知られているところです。また、スポーツは子供たちにとって肯定的なものとして考えられています。例えばチャレンジ精神、困難を乗り越える力、社会への適応力といったものがスポーツによって養われると言われています。

一方で、子供にスポーツをさせると勉強などの活動時間が減るのではないかと心配する向きもあります。しかし、今年1月に英国のエミリー・タナーらの共同研究で、その懸念を払しょくする結果が発表されたそうです。この研究は英国の子供約1万人の発達状況を、出生段階から小学校卒業まで追跡した調査に基づいています。成績が同程度の子供で、放課後のスポーツ活動に参加した子供と参加しなかった子供のその後の成績を11歳時点で比較すると、スポーツ活動に参加した子供は、参加しなかった子供に比べて、数学の成績が向上する頻度が1.5倍も高かったそうです。さらに、参加した子供は社会的、感情的、行動的な側面においても良好な傾向を示したとのことです。こうした研究はドイツでも行われており、英国のこの研究と類似した結果が得られているそうです。

大人になってからのスポーツ活動への参加についての研究もあるとのことです。そのうちの多くはスポーツ活動には長期的に所得水準を引き上げる効果があるとしています。その効果はかなり大きく、4パーセントから17パーセントになるという話です。

また、大阪大学の大竹文雄(おおたけ ふみお)教授と佐々木勝(ささき まさる)教授による、日本の自動車メーカーに勤務する従業員を対象にした研究によると、スポーツ活動の経験がある高卒従業員の方がそうでない従業員よりも昇進可能性が高くなる傾向があったそうです。正にスポーツには個人の生産性を引き上げる効果があるということになります。もちろん例外はあるのでしょうが、傾向として「スポーツ万歳」ということになるようです。