200万円未満の収入で働く人が、就業者全体の33.4%に当たる1,883万人に上るというデータを、寺島実郎(てらしま じつろう)氏の資料集「時代認識と提言(2016年初夏号)」で拝見しました。寺島氏は、こうした状況の背景には、2000年から2015年の15年間に起きた産業間の就業者の移動によって生じた所得の劣化があると言われています。

この間、製造業から286万人、建設業から153万人の雇用が失われた一方で、広義のサービス業の就業者は583万人増加しております。就業者全体としては増加という形になります。
しかし、給与が減少しております。現金給与総額の平均でゆくと広義のサービス業の平均は年359万円で、建設業から比べると97万円マイナス、製造業から比べると92万円マイナスです。サービス業の中でも、2000年と比べて特に就業者が増加している医療福祉(330万人増)、宿泊飲食業(20万人増)の平均は年252万円で更に落ち込みます。医療福祉業の中で就業者が増えているのは、いわゆる介護の分野ですが、正にこの部分が年収250万円の世界だということになるわけです。インバウンド(外国人旅行者の受け入れ)で観光立国日本を目指し、宿泊飲食業を多くの人の雇用の受け皿にしたいと思っているところですけれども、これもまた年収250万円の世界ということになります。このままでは、ますますプアな就業者が増えていくということになります。

アベノミクスで安倍総理には頑張っていただきました。3年間の総括を見れば、2012年の平均で121兆円であったマネタリーベースが、2016年1月の平均では355兆円ですから2.9倍に増えています。マネタリーベースは「現金通貨+日銀当座預金」ですから、日銀が銀行から大量の国債を買い、その代金が銀行が日銀に持っている口座に振り込まれた結果、極めて高い伸びを示しています。マネーストック(現金通貨+預金通貨)は期待ほど伸びていませんが、銀行の貸出残高は2012年の平均397兆円から2016年1月平均で434兆円、プラス9.3%、3年間で9.3%伸びています。

ところが、勤労者の可処分所得(2人以上世帯)を見ると、2012年の月額平均が42万5千円だったのが、2015年では42万7千円ですので、ほとんど動いていません。家計消費支出においても、2012年の月額平均28.6万円が2015年は28.7万円と、これもほとんど動いていません。こうした勤労者の可処分所得が増えない、家計の消費支出が増えない背景には、まさしく年収200万円以下の就業者が33%にも上るという事実があります。

このように、貧困と格差が拡大する背景には、産業・雇用構造の大転換があり、更にその背景には、巨大でしかも制御の難しい経済のグローバル化があります。アメリカやヨーロッパの先進各国が皆この問題に悩まされています。
貧困と格差を克服する政策が、正に世界的にも喫緊の課題になっているように思います。さてさて埼玉県も頑張らなければと思います。次回は埼玉県の現況についてお知らせをします。