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 先日、「悩ましい国語辞典」(時事通信社)という本を読みました。著者は小学館に入社して以来、36年間ほぼ辞書の編集一筋という編集者人生を送ってこられた神永暁(かみなが さとる)氏です。

 「言葉は生き物である」とよく言われます。本来はなかった新しい意味や用法がいつの間にか広まったり、あるいは古語としての意味が失われていたのに、何らかのタイミングで復活している言葉もあるそうです。本書では、このような意味が揺れている言葉や、定着するまでに面白いエピソードがある言葉などが紹介されていて、大変興味深い一冊でした。その中からなるほどと納得した用例を御紹介いたします。

 卒業予定の学生の採用を早くから内定することを「青田買い」と言う人もいれば、「青田刈り」と言う人もいます。似たような言い回しがされることに、今ではあまり違和感を抱かなくなってしまっています。

 しかしながら、この二つの言葉には本来、明確な意味の違いがあります。日本国語大辞典によると、「青田買い」の本来の意味は、「水稲の成熟前にその田んぼの収穫量を見越して先買いすること」です。「青田刈り」は、「収穫を急ぐあまり稲をまだ穂の出ないうちに刈り取ること」です。したがって、就職内定で卒業前の学生を採用するということであれば、穂が出ないうちに刈り取ってしまう、ということは才能などを先に刈り取ってしまうということになりますので、「青田刈り」は間違いということになるようです。

 ところが2004年度の「国語に関する世論調査」では「青田買い」を使う人が29.1%、間違った言い方である「青田刈り」を使う人が34.2%と逆転した結果が出てしまっているそうです。日本国語大辞典にも、この調査より35年前の「青田刈り」を使った用例が載っているそうです。会社の採用決定が早まっているという意味で使われていると著者は述べています。推測ですが、当時は経済が右肩上がりで金の卵である学生を奪い合う様子が正に「青田刈り」というイメージにつながったのかもしれません。

 「青田買い」と「青田刈り」のように、似た言い回しの言葉が本来の意味とは別に混同されたまま使われてしまっている例はこのほかにもあるのではないでしょうか。日本語は難しいですね。

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