建築関連の専門用語や業界用語であった言葉がどのようにして日常生活で使われるようになったのか、9月8 日と9日のブログで御紹介しました。今日はその3回目「根回し」です。

 ビジネスや政治の世界で交渉事を成立させるためにあらかじめ関係者に話を通し、説得や利害の調整を通じて合意形成を図っておく事前交渉や工作を「根回し」と言います。この「根回し」の語源は、実は成長した樹木の根の処理方法に由来する造園用語だそうです。

 成長した樹木を移植する際に根の処理を誤ると枯らしてしまう確率が高くなります。そこで庭師が行うのは根回し(「根回り」とも言います)です。この根回しは、樹木の長く伸びた根が傷まないように根元を藁(わら)などで巻いたりして、根を丁寧に扱って植え替えすることのように思われがちですが、実はそうではないようです。

 一般に樹木は、根の先端に生える細い根、「細根」によって地中から水分や養分を吸い上げて、その命脈を保っています。移植する際には、長く伸びた根の先端にある細根を切らざるを得ません。しかし、切ったままでは水分や養分を吸わない根元の固い部分しか残りません。そこで行うのが環状剥皮(かんじょうはくひ)という作業だそうです。これは、まず根元の太い根の周りをくるりと剥(む)いて新たな細根の発生を促すそうです。その後、再び地中に埋めると細根が生えてきます。これを幾度か繰り返す「堀り取り」を行ううちに、移植に耐えうる細根が密生するそうです。

 このように木を移植するに当たって根の周りを処理する一連の作業を「根回し」と言ったそうです。樹齢100年の古木であれば、約1年掛けて根回しを行うそうです。それ以上の樹齢の古木であれば、3年から5年も掛けるそうです。

 この用意周到な下準備の意味であった「根回し」が転じて、いつの間にかビジネスや政治の世界で行われる事前交渉を表す言葉として使われるようになったそうです。一般にこの「根回し」は公の場で行われないこともあって、裏工作ともとられ、悪いイメージが持たれがちですが、実はいい話から出て来た言葉でした。